ガンマスクイーズとは?仕組みと4つの発生条件
ガンマスクイーズとは何か。コールを売ったディーラーがデルタヘッジのために原資産を買い足し、その買いが上値のストライク帯に積み上がる連鎖を、ゲームストップ2021年1月のデータで分解します。借株の話であるショートスクイーズとの違い、事前に確認できる4つの条件、日本の個人投資家が見るときの注意点も整理します。
ガンマスクイーズとは、コールを売ったディーラーがデルタヘッジを維持するために原資産を買い足し続け、その買いが上値のストライク帯に向かって積み上がっていく状態を指します。買いの発生源は、ポジションを値動きに対して中立に保つための機械的な調整です。以下では、仕組みの分解、ショートスクイーズとの違い、事前に確認できる条件、2021年1月のゲームストップの記録という順で確認していきます。
ガンマスクイーズの仕組み:ヘッジが買い注文を作る順序
デルタは、原資産が1ドル動いたときにオプション価格がどれだけ動くかを表し、ヘッジに必要な株数と読み替えられます。ガンマは、その原資産1ドルの動きでデルタ自体がどれだけ変化するかを表します。ガンマの定義は オプションのガンマとは何か、ヘッジ側の計算手順は デルタヘッジの仕組み で扱っています。
コールを売った側はショートガンマの状態になります。そこから先の順序は4段階です。
- 投資家がコールを買い、ディーラーがその反対側で売る。
- ディーラーは値動きに対して中立でいるため、売ったコールのデルタに相当する株数を買って保有する。
- 原資産が上がると、そのコールのデルタは大きくなる。必要な保有株数も増える。
- 増えた差分を買い足す。さらに上がれば、また買い足す。
3と4が繰り返される構造が、ガンマスクイーズと呼ばれているものの中身です。ガンマはストライク近辺で最も大きく、満期までの日数が短いほど山は鋭くなります。同じ1ドルの値動きに対しても、必要な買い足しの量は満期直前ほど大きくなります。
上値にどれだけヘッジ需要が控えているかは、ストライクごとにガンマを足し合わせると形が見えます。次のパネルは、満期まで10日以内のNVDAコールについて、現値の上下8%に入るストライクのガンマを集計したものです。建玉ではなく、その日の出来高で重み付けした概算値である点に注意してください。
| strike | as_of | call_gamma_shares | call_volume |
|---|---|---|---|
| 215 | 2026年9月22日 | 2874 | 1820 |
| 217.5 | 2026年9月22日 | 3356 | 1649 |
| 220 | 2026年9月22日 | 20808 | 8023 |
| 222.5 | 2026年9月22日 | 18825 | 5291 |
| 225 | 2026年9月22日 | 138328 | 26749 |
| 227.5 | 2026年9月22日 | 725737 | 96386 |
| 230 | 2026年9月22日 | 3258036 | 412880 |
| 232.5 | 2026年9月22日 | 1120927 | 187831 |
| 235 | 2026年9月22日 | 603179 | 180853 |
| 237.5 | 2026年9月22日 | 77869 | 42471 |
| 240 | 2026年9月22日 | 88649 | 57745 |
| 242.5 | 2026年9月22日 | 13598 | 10292 |
| 245 | 2026年9月22日 | 12722 | 14406 |
各数値の背後にある正確なSQL
WITH (
SELECT max(date)
FROM global_markets.options_greeks
WHERE underlying_symbol = 'NVDA'
AND date >= today() - 30
) AS latest_day
SELECT
round(toFloat64(strike_price), 2) AS strike,
concat(toString(toYear(latest_day)), '年',
toString(toMonth(latest_day)), '月',
toString(toDayOfMonth(latest_day)), '日') AS as_of,
round(sum(toFloat64(gamma) * toFloat64(volume)) * 100, 0) AS call_gamma_shares,
round(sum(toFloat64(volume)), 0) AS call_volume
FROM global_markets.options_greeks
WHERE underlying_symbol = 'NVDA'
AND option_type IN ('call', 'C')
AND date = latest_day
AND iv_converged = 1
AND volume > 0
AND days_to_expiry BETWEEN 1 AND 10
AND abs(toFloat64(strike_price) / toFloat64(underlying_close) - 1) < 0.08
GROUP BY strike
HAVING sum(volume) > 1000
ORDER BY strike対象は 2026年9月22日 時点の 13 ストライクで、下は 215 ドルから上は 245 ドルまで並びます。一番上のストライクだけでも出来高は 14406 枚あり、原資産が1ドル動くごとにおよそ 12722 株分のヘッジ調整に相当する計算になります。市場全体でこの集計がどちら側に積み上がっているかを見る枠組みが ガンマエクスポージャー(GEX) で、ここでは1銘柄の上値だけを切り出しています。
ショートスクイーズとの違いはどこにあるか
ショートスクイーズは借株の話です。空売りの建玉を持つ側が、貸株の返却要求、証拠金の都合、あるいは自らの判断で買い戻しに回ると、そこに買い注文が発生します。確認する数字は、空売り残高、平均出来高で割った日数であるdays to cover、貸株料、返却要求の有無の4つです。ガンマスクイーズはヘッジの話で、確認する数字はストライク別の建玉、満期までの日数、ディーラー側のガンマの符号、浮動株の大きさになります。両方が同じ値動きの中で同時に走ることもあり、板の上では見分けがつきません。空売り側の仕組みは ショートスクイーズの仕組み にまとめています。
ゲームストップの空売り残高は、2021年1月をはさんで水準が入れ替わっています。報告は月2回、決済日ベースです。
| settlement_date | settle_label | short_interest_millions | days_to_cover |
|---|---|---|---|
| 2020-10-15 | 2020年10月15日 | 70.3 | 3.55 |
| 2020-10-30 | 2020年10月30日 | 66.8 | 8.11 |
| 2020-11-13 | 2020年11月13日 | 67.5 | 14.05 |
| 2020-11-30 | 2020年11月30日 | 68 | 8.72 |
| 2020-12-15 | 2020年12月15日 | 68.1 | 6.89 |
| 2020-12-31 | 2020年12月31日 | 71.2 | 6.14 |
| 2021-01-15 | 2021年1月15日 | 61.8 | 2.1 |
| 2021-01-29 | 2021年1月29日 | 21.4 | 1 |
| 2021-02-12 | 2021年2月12日 | 16.5 | 1 |
| 2021-02-26 | 2021年2月26日 | 14.2 | 1 |
| 2021-03-15 | 2021年3月15日 | 10.2 | 1 |
| 2021-03-31 | 2021年3月31日 | 10.7 | 1 |
| 2021-04-15 | 2021年4月15日 | 11.1 | 1.13 |
| 2021-04-30 | 2021年4月30日 | 11.8 | 2.11 |
| 2021-05-14 | 2021年5月14日 | 12 | 3.15 |
| 2021-05-28 | 2021年5月28日 | 12 | 1.45 |
| 2021-06-15 | 2021年6月15日 | 9.7 | 1 |
| 2021-06-30 | 2021年6月30日 | 8.2 | 1.56 |
各数値の背後にある正確なSQL
SELECT
toString(d) AS settlement_date,
concat(toString(toYear(d)), '年',
toString(toMonth(d)), '月',
toString(toDayOfMonth(d)), '日') AS settle_label,
short_interest_millions,
days_to_cover
FROM
(
SELECT
settlement_date AS d,
round(max(short_interest) / 1e6, 1) AS short_interest_millions,
round(max(days_to_cover), 2) AS days_to_cover
FROM global_markets.stocks_short_interest
WHERE ticker = 'GME'
AND settlement_date BETWEEN '2020-10-01' AND '2021-06-30'
GROUP BY settlement_date
)
ORDER BY d2020年10月15日 時点の空売り残高は 70.3 百万株、days to cover は 3.55 日でした。期間の最後、2021年6月30日 では 8.2 百万株です。パネルには 18 回分の報告が並びます。報告日と決済日にずれがあるため、この系列は日次の値動きとは粒度が違います。空売り残高の増減とオプションのヘッジ需要は、別々の場所に記録される別々の数字です。
2021年1月28日のゲームストップに何が記録されたか
株価の水準は2022年の株式分割をまたぐため、ここでは前日比と日中値幅という比率で並べます。比率は分割調整の影響を受けません。
| date | day_label | close_change_pct | high_low_range_pct | volume_millions |
|---|---|---|---|---|
| 2021-01-19 | 1月19日 | 10.9 | 24.2 | 301 |
| 2021-01-20 | 1月20日 | -0.6 | 14.2 | 134.7 |
| 2021-01-21 | 1月21日 | 10 | 20.9 | 228.7 |
| 2021-01-22 | 1月22日 | 51.1 | 81.4 | 789.5 |
| 2021-01-25 | 1月25日 | 18.1 | 160.4 | 718.5 |
| 2021-01-26 | 1月26日 | 92.7 | 87 | 716.7 |
| 2021-01-27 | 1月27日 | 134.8 | 52.6 | 378.8 |
| 2021-01-28 | 1月28日 | -44.3 | 330.3 | 237.4 |
| 2021-01-29 | 1月29日 | 67.9 | 65.6 | 203.9 |
| 2021-02-01 | 2月1日 | -30.8 | 51.9 | 150.7 |
| 2021-02-02 | 2月2日 | -60 | 112.9 | 314.3 |
| 2021-02-03 | 2月3日 | 2.7 | 33 | 172.5 |
| 2021-02-04 | 2月4日 | -42.1 | 71.6 | 250.3 |
| 2021-02-05 | 2月5日 | 19.2 | 85.9 | 326.4 |
各数値の背後にある正確なSQL
SELECT
toString(d) AS date,
day_label,
close_change_pct,
high_low_range_pct,
volume_millions
FROM
(
SELECT
date AS d,
concat(toString(toMonth(date)), '月', toString(toDayOfMonth(date)), '日') AS day_label,
round((toFloat64(close) / lagInFrame(toFloat64(close))
OVER (ORDER BY date ROWS BETWEEN 1 PRECEDING AND CURRENT ROW) - 1) * 100, 1) AS close_change_pct,
round((toFloat64(high) / toFloat64(low) - 1) * 100, 1) AS high_low_range_pct,
round(volume / 1e6, 1) AS volume_millions
FROM global_markets.stocks_daily_aggs
WHERE ticker = 'GME'
AND date BETWEEN '2021-01-11' AND '2021-02-05'
)
WHERE d >= '2021-01-19'
ORDER BY d1月27日 の終値は前日比 134.8%、高値と安値の開きは 52.6%、出来高は 378.8 百万株でした。翌 1月28日 は前日比 -44.3%、日中の値幅は 330.3% まで広がり、高値が安値の数倍という一日になっています。パネルは 1月19日 から 2月5日 までの 14 営業日です。
同じ満期のコールはストライクが高いほど1枚あたりの金額が小さくなるため、少ない資金で枚数を積めるのは上のストライク側です。そして枚数が積まれた上のストライク帯は、原資産が近づいたときにヘッジ需要が最も速く増える場所でもあります。当日の時系列と制度面の経緯は 2021年1月28日のゲームストップ に整理してあります。
事前に確認できる4つの条件
- 現値のすぐ上に、短期コールの建玉が集中していること。ヘッジ需要の山がどこにあるかを決める条件です。
- 浮動株が小さいこと。同じヘッジ株数でも、板に対する大きさが変わります。
- 満期までの日数が短いこと。ガンマの山が鋭くなり、同じ値動きに対する調整量が増えます。
- ディーラー側のガンマがマイナス側にあること。符号が入れ替わる水準の考え方は ガンマフリップ で説明しています。
4つとも揃っていても、何も起きない日のほうが圧倒的に多数です。これらは事後に確認できる条件を並べたもので、予測の道具ではありません。ヘッジの買いが実際の値動きにどれだけ寄与したかは、外側の板からは分離して観測できません。
日本から見るときの注意点
日本の個人投資家がこの現象に出会うのは、ほぼ米国銘柄を通じてです。国内の株式オプションは日経225オプションに流動性が集中しており、個別株オプションの市場は薄いままです。1銘柄のストライク別建玉が値動きの中心に来る場面は、国内銘柄では限られます。米国株オプションの取引時間や権利行使まわりの実務は 日本から米国の短期オプションを見るときの注意点 にまとめています。
データに関する注記
- ガンマの集計は建玉ではなく、その日の出来高で重み付けした概算です。建玉ベースの数字とは一致しません。
- ゲームストップの株価は2022年の株式分割をまたぐため、水準ではなく比率で表示しています。
- 空売り残高は月2回の報告で、決済日ベースです。報告の遅れがあります。
FAQ
ガンマスクイーズとショートスクイーズの違いは何ですか?
ガンマスクイーズはヘッジの話で、コールを売った側がデルタを中立に保つために原資産を買い足す動きです。ショートスクイーズは借株の話で、空売りの建玉を買い戻す動きです。前者はオプションの建玉とガンマに、後者は空売り残高とdays to coverに記録が残ります。
ガンマスクイーズはどのくらい続きますか?
定義上の期間はありません。ヘッジ需要の大きさは建玉と満期までの日数で決まるため、対象の満期が過ぎればその分のヘッジ需要は消えます。短い満期に建玉が偏っているほど、関係する期間も短くなります。
株価が下がる場面でも同じことは起きますか?
起きます。ショートガンマのヘッジは値動きと同じ方向に調整が入るため、下落局面では売り側に調整が出ます。上昇時の買い足しと下落時の売り足しは、同じ計算式の符号違いです。
日本株でもガンマスクイーズは起きますか?
仕組み自体に国の区別はありません。ただし国内の個別株オプションは出来高が限られるため、特定のストライクに建玉が集中して値動きの中心になる場面は観測しにくい状況です。
同じ集計は、銘柄と期間を差し替えてStrasmoreのターミナルでそのまま走らせられます。